落花生を剥く手に刻まれた、島の時間

Profile

岡野 勝美 (おかの かつみ)

  納島で代々受け継がれてきた落花生づくりを続ける生産者。
小値賀町納島出身。中学卒業後に島を離れ、働きながら夜間高校へ通い、その後博多で勤務。多忙な日々を経て納島へ戻り、農業や子育てに向き合いながら落花生づくりを続けてきた。効率化のため機械剥きを取り入れた時期もあったが、味へのこだわりから再び手剥きに戻し、ひとつひとつ丁寧に仕上げている。
天候や土の変化と向き合いながら、「一番美味しい状態で届けたい」という思いで、納島の味を守り続けている。

暮らしと共に育まれた幻の落花生

納島で受け継がれてきた落花生づくりは、特別なものではなく、もともとは暮らしの中から生まれたものだった。

麦の収穫が終わった畑を使い、自分たちで食べるために育てる。
やがてそれは、島の女性たちの手によって支えられながら、生活をつなぐ大切な仕事になっていった。

当時は、船で野菜を売りに行く「商い」をする家も多かったが、それが難しい家庭にとって、落花生は家でできる貴重な収入源でもあった。

自然に合わせて育てる落花生は、毎年同じようにはいかない。
それでも「一番美味しいものを届ける」という考えは、今も変わらず受け継がれている。

旬は3月から4月。
短い期間のなかで、最も美味しい状態を見極めて届ける。

そんな営みが、納島の落花生を形づくってきた。
手をかけて、時間をかけて、守られてきた味だ。

落花生を剥く手に、積み重ねてきた時間が刻まれている

「夢なんて、考える暇なかったよ。」

そう言って、勝美さんは少しだけ笑う。

中学卒業後は島を離れ、寮で暮らしながら昼は働き、夜は高校へ通う日々。卒業後は博多で働いたが、忙しさの中で心も身体も余裕をなくしていった。

そんなとき、ふと浮かんだのが「島に戻る」という選択だった。

「若かったけん、勢いで戻れたとよ。」

納島での暮らしは、農業、家事、子育てに追われる毎日。
その日々の中で、自然と向き合いながら続けてきたのが、落花生の仕事だった。

いま勝美さんは、納島で落花生の仕事を続けている。
効率を求めて機械剥きに切り替えた時期もあったが、味が落ちることに気づいた。

「機械ですると豆に傷が入って、油が回ると。二ヶ月くらいで味が落ちてしまうとよ。手で剥いたんは全然違う。美味しいと。」

だから再び“手剥き”に戻した。
指が曲がるほどの負荷がかかっても、味を守るために手を動かし続けている。

畑の土も、昔とは違う。
「土が固くてね。雨が降ったら掘られん。今は天気も読めんもんな。」
そう言いながらも、畝の幅や時期を探り、自然と向き合い続けている。

「知らん土地でこの暮らしなら、とっくに辞めとるよ。ここやけん、続けられると。」

その言葉には、続けてきた理由と、島への静かな感謝がにじんでいた。

“自分の人生”と向き合うために

来年からは年金生活が始まる。
長いあいだ家族や仕事、そして落花生づくりに向き合ってきた勝美さんは、その節目を穏やかな表情で見つめている。

「これからは、少しずつ自分の時間も持てたらよかね。」

納島では落花生を育てる人も年々少なくなっている。
勝美さん自身も、これからは無理のない形で畑との向き合い方を考えていくという。
落花生も少しずつ手を離し、自然に還していくのだろうと静かに話す。

これまで当たり前のように続けてきた手仕事。
その時間を大切にしながらも、これからは少しずつ、自分のための時間にも目を向けていきたい。

旅行に出かけたり、庭の花を増やしたり、好きな編み物にゆっくり向き合ったり。
そんなささやかな楽しみを思い描くその表情には、これまで積み重ねてきた日々の先にある、あたたかな楽しみがにじんでいた。


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